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神戸地方裁判所 平成8年(ワ)2094号 判決

神戸市中央区港島中町四丁目一番一

原告

株式会社ダイエー

右代表者代表取締役

中内功

右訴訟代理人弁護士

木村修治

小野昌延

大阪市中央区南船場三丁目五番二六号

被告

株式会社徳岡

右代表者代表取締役

徳岡豊裕

右訴訟代理人弁護士

中村嘉男

右輔佐人弁理士

岡本昭二

主文

一  被告は、その経営する酒類販売店舗の看板(店頭表示板)、広告燈、日除けテント、案内板、外壁及び入口ガラス壁面に別紙被告標章目録記載〈1〉及び〈3〉の標章を、領収書に同目録記載〈1〉ないし〈4〉の標章を、チラシに同目録記載〈1〉ないし〈3〉の標章を、会社案内、定価札に同目録記載〈2〉の標章を使用してはならない。

二  被告は、その経営する酒類販売店舗の看板(店頭表示板)及び入口ガラス壁面から別紙被告標章目録記載〈1〉及び〈3〉の標章を、広告燈、日除けテント、案内板及び外壁から同目録記載〈3〉の標章を抹消せよ。

三  原告のその余の請求を棄却する。

四  訴訟費用は五分し、その三を原告の負担とし、その余は被告の負担とする。

事実

第一  当事者の求める裁判

一  請求の趣旨

1  主文第一項と同旨

2  被告は、その経営する酒類販売店舗の看板(店頭表示板)、広告燈、日除けテント、案内板、外壁及び入口ガラス壁面から、別紙被告標章目録記載〈1〉及び〈3〉の標章を抹消せよ。

3  被告は、原告に対し、金一億二三五四万円及びこれに対する平成八年一一月六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

4  訴訟費用は被告の負担とする。

5  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  当事者

(一) 原告は、食料品、衣料品、日用雑貨品、家具製品、住宅設備機器、電気製品、化粧品、医薬品等の百貨全般を小売販売をすることを主たる目的とする我が国最大のチェーンストアを経営する会社である。

(二) 被告は、昭和四六年一〇月一八日に設立された株式会社であり、昭和五〇年一一月三〇日に目的を変更し、主として酒類の卸、小売販売を行っている。

2  (商標権に基づく請求)

(一) 原告の商標権

原告は、次の各商標権を有している(以下、(1)の商標権を「本件商標権(1)」その登録商標を「本件商標(1)」といい、(2)の商標権を「本件商標権(2)」その登録商標を「本件商標(2)」といい、右各商標権及び商標を、それぞれ「本件各商標権」、「本件各商標」という。)。

(1) 出願日 昭和六三年六月一七日

出願公告日 平成三年一月二三日

登録日 平成三年一二月二五日

登録番号 第二三五八九一一号

指定商品 平成三年政令第二九九号による改正前の商標法施行令

別表第二八類 酒類(薬用酒を除く)

商標の構成 別紙原告商標目録(1)記載のとおり

(2) 出願日 昭和五八年二月一九日

出願公告日 平成六三年八月九日

登録日 平成二年八月三〇日

登録番号 第二二五八〇八五号

指定商品 平成三年政令第二九九号による改正前の商標法施行令

別表第二八類 酒類(薬用酒を除く)

商標の構成 別紙原告商標目録(2)記載のとおり

(二) 被告の標章使用

被告は、遅くとも平成元年以降、別紙被告標章目録記載〈1〉ないし〈4〉の標章(以下、右各標章を、右目録記載の番号に従って「被告標章〈1〉」などといい、その全部を合わせて単に「被告標章」という。)を、その経営する酒類販売店の看板(店頭表示板)、広告燈、日除けテント、案内板、外壁及び入口ガラス壁面等に表示して使用し、また、その広告チラシ、領収書、会社案内及び定価札等にも表示して、酒類の販売をしている。

(三) 本件各商標と被告標章の類否

(1) 被告標章〈1〉〈4〉は、本件各商標の欧文字部分と外観(文字構成)及び称呼が同一であるから、本件各商標に類似する。

(2) 被告標章〈2〉は、本件各商標の片仮名部分と外観及び称呼が同一であるから、本件各商標に類似する。

(3) 被告標章〈3〉のうち、「SAKE市場」の部分は、酒を売っている場所ないし店舗を意味することが誰にも容易に認識出来るものであるから、酒類につき使用するときは、何ら識別力がないうえ、「マルシェ」の部分と切り離されて表記されていることから、被告標章〈3〉の要部は、「マルシェ」の部分にある(特に、被告は、右「マルシェ」の部分を「SAKE市場」の部分より大きく表示していることが多く、この場合は、外観上も「マルシェ」の部分が要部であることは一層明瞭である。)。

そして、被告標章〈3〉の右要部「マルシェ」は、本件各商標の片仮名部分と外観及び称呼が同一であるから、被告標章〈3〉は、本件各商標に類似する。

(四) 商品の同一

被告は、本件各商標権の指定商品である酒類について、被告標章を使用している。

(五) 損害

原告は、被告による本件商標権(1)又は本件商標権(2)の侵害により損害を被ったところ、その額は、商標法三八条に基づき、次のとおり一億二三五四万円を下らないものと推定される。

(1) 商標法(ただし、平成一〇年五月六日法律第五一号による改正前の商標法・以下同じ)三八条一項に基づく推定

被告が、平成五年一〇月一日から平成一〇年九月三〇日までの間に、被告標章を使用して販売した酒類の売上額は、合計二〇五億九〇〇〇万円を下らない(一年間平均四一億一八〇〇万円。被告の一〇〇パーセント子会社の売上も含む)。

被告は、右売上額のうち少なくとも一パーセントの利益を確保しているから、被告の右期間における利益は、二億円を下らない。

そのうち、平成五年一〇月一日から平成八年九月三〇日までの間の被告の売上は一二三億五四〇〇万円を下らず、その期間における利益は一億二三五四万円を下らない。

(2) 商標法三八条二項に基づく推定 本件各商標の使用料相当額は、売上高の一パーセントを下らない。

したがって、平成五年一〇月一日から平成八年九月三〇日までの間の使用料相当損害金は一億二三五四万円を下らない。

3  (不正競争防止法に基づく請求)

(一) 原告の商品等表示の周知性

原告は、昭和六三年以前から、全国の直営店舗を中心にいわゆる「マルシェコーナー」を設け、「MARCHE」ないし「Marche」、あるいは「マルシェ」なる商品等表示(いずれも「マルシェ」なる称呼を生じるもの。以下、これらを「原告表示」という。)を使用して、原告のいわゆるグループ会社である株式会社マルシェに業務委託することにより、装飾、服飾雑貨品を販売している。

そして、昭和六三年当時においては、原告の右「マルシェコーナー」は原告の全国の一〇〇程度の店舗内に設けられていたのであり、原告の店舗意全国的に著名であることから、原告表示は、被告が被告標章の使用を開始した当時には既に、原告及びそのグループ会社である株式会社マルシェの出所を表示する商品等表示として、装飾、服飾雑貨品の顧客層に全国的に広く認識されていた。

(二) 原告表示と被告標章の類否

(1) 被告標章〈1〉〈2〉〈4〉は、原告表示と外観及び称呼が同一または類似である。

(2) 被告標章〈3〉のうち、「SAKE市場」の部分は酒を売っている場所ないし店舗を意味することが誰にも容易に認識出来るもので、被告のように酒類を販売する店舗において使用するときは何ら識別力がないうえ、「マルシェ」の部分と切り離されて表記されていることから、被告標章〈3〉の要部は「マルシェ」にあり(被告は、右「マルシェ」の部分を「SAKE市場」の部分より大きく表示して使用していることが多い。)、この要部「マルシェ」は、原告表示と外観及び称呼が同一または類似である。

(三) 混同のおそれ、営業上の利益侵害

被告は、原告表示に類似する被告標章を使用して、量販商法による酒類の販売を行っているが、原告がいわゆる流通革命の担い手として量販商法の著名な企業であり、現実に酒類の販売も行っていることを考慮すれば、被告の右行為は、被告が原告のいわゆる子会社ないしグループ内の会社であるなどと、原告と営業上の緊密な関係があるものと誤信させるものであり、かかる混同を招来すること自体が原告の営業上の利益を侵害する。

(四) 損害

(1) 被告の故意、過失

被告は、別紙被告出願商標目録記載の構成から成る商標(以下「被告出願商標」という。)を昭和六三年三月四日に出願するにあたり、類似の商標権が登録されていないかを調査したが、当時、原告の本件商標(1)と全く同じ商標が設定登録されていたのであり(その商標権は昭和六二年一一月七日に更新手続の失敗により失効したが、これが登録原簿から抹消されたのは平成元年三月二三日である。)、したがって、被告は、昭和六三年当時、既に本件商標〈1〉の存在を知っていた。

さらに、被告は、被告出願商標の登録出願が一旦、原告の本件商標(2)と同一または類似していることを理由に拒絶査定を受けたので、平成三年二月一八日付けで審判請求しているが、その中で、被告は、右商標が「SAKE市場MARCHE」として一体連合に認識されるべきものであって、決して「SAKE」、「市場」、「MARCHE」が分離した状態にないことを強調して、ようやく出願公告が認められたものである(もっとも、この出願公告決定については、原告が異議申立てをしているので、現在に至るまで登録査定はなされていない。)。

しかし、被告は、現実には、被告出願商標をそのまま使用しているのではなく、「MARCHE」(アーチ型ないし平板型)、「マルシェ」等を単体で、あるいは「SAKE市場 マルシェ」のように、「SAKE市場」と「マルシェ」との間に間隔をあけて「マルシェ」を明らかな要部として使用しているのであって、被告に故意があることは明らかである。

(2) 損害額

請求原因2(五)と同じ。

4  よって、原告は、被告に対し、本件各商標権または不正競争防止法二条一項一号、三条一項に基づき、被告標章の使用差止め及び不法行為に基づく損害賠償として金一億二三五四万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成八年一一月六日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は認める。

2  同2について

(一) 同(一)の事実は認める。

ただし、原告は、本件の第三回口頭弁論期日に、それまでの本件商標権(1)に基づく差止請求及び損害賠償請求に加えて、本件商標権(2)に基づく差止請求及び損害賠償請求を選択的に追加する訴えの変更を申立てたが、本件商標権(2)は本件商標権(1)とは別個の商標権であり、したがって右の各請求は請求の基礎の同一性を欠くから、右原告の訴えの変更は許されない。

(二) 同(二)の事実のうち、被告標章〈3〉〈4〉を原告主張のとおり使用していることは認めるが、その余は否認する。

被告は、被告標章〈1〉と類似の標章を使用しているが、それはフランス語の「MARCHE」の下に「SAKE市場マルシェ」なる文字が横書にして必ず入るもの(右両表示を一体表示するもの)である。

また、被告は、例外的場合を除いて、被告標章〈2〉の「マルシェ」を単独で使用したことはなく、その表示の下部または上部あるいは左右などに「SAKE市場マルシェ」または「SAKE市場」の表示が伴い、これらが一体となって認識されるものである。

(三) 同(三)の事実は否認する。

(1) 「マルシェ」はフランス語で「朝市」とされ、英語で「マーケツト」を意味することは一般に広く知られており、その意味では、元来普通名称であるところ、原告の本件各商標の登録が認められたのは、「MARCHE/マルシェ」(以下、この記載を含め、「/」の上に記載した部分が上段に、下に記載した部分が下段に記載されているものとする。)と欧文字の文字部分と片仮名の文字部分が一体となっているというところに、登録商標としての意味があるとされたからである。

そうだとすれば、被告標章は、右のような複合体を用いたものではない以上、本件各商標との間に類似の関係はない。

(2) 被告標章〈2〉については、被告は「マルシェ価格」という表示で「マルシェ」の標章を使用しているが、右「マルシェ価格」の表示は、店内の表示で、表示のスペースが限定されているために、やむなく「酒市場マルシェ価格」の略称として使用しているだけである。

なお、被告のパンフレットには、「マルシェ」を使用したものがあるが、それは平成二年作成のもので、その後すべて改定されており、当時のものであっても、パンフレット全体からは「SAKE市場マルシェ」が昭和六三年にオープンしたことを宣伝するものであって、この「マルシェ」が「SAKE市場マルシェ」の略称であることは明らかである。

そして、後記のとおり、「SAKE市場マルシェ」が本件各商標と類似しない以上、右のような被告標章〈2〉の使用は、本件各商標権を侵害しないというべきである。

(3) 被告標章〈3〉のうち、「SAKE市場」の部分は酒類の質、量の豊富さ、賑やかさを観念させ、また、「SAKE文化」の創造的発展を意味し、そこに顧客吸引力、信用力を高めることのできる重要な要素がある。連の表示として構成されているところに意味があり、右一連の表示が自他識別力を有するものである。

したがって、被告標章〈3〉は、本件各商標と類似しない。

(4) 被告標章〈4〉については、確かに被告の領収書には「MARCHE」と単独で表示されているが、これは店内の商品を購入した客に対する領収書であり、客は「SAKE市場マルシェ」店で購入した品物に対する受取書という認識以外、もつはずがない。

そして「SAKE市場マルシェ」が本件各商標と類似しない以上、被告が領収書に被告標章〈4〉を使用しても、本件各商標権を侵害しない。

(5) 本件商標〈2〉には、「MARCHE/マルシェ」以外にも、「左下が斜めに欠けた円」の図形とその下に書かれた「Daiei」の文字があり、この部分が原告の社標として特徴的であり、「ダイエーのマルシェ」という称呼・観念を生じさせるものである。

そのことは、本件商標〈2〉の登録に先行して、「MARCHE de Miyako」(乙一一の一・二〔出願日・昭和五三年九月八日、出願公告日・昭和五六年二月一七日、登録日・同年一二月二五日、指定商品・第二八類酒類〕)という商標が設定登録され、また、本件商標〈2〉及び被告出願商標(出願日・昭和六三年三月四日、指定商品・第二八類 酒類〔薬用酒を除く〕)よりも後願の、「マルシエグループ/MARCHEGROUP」(乙一二の一・二〔出願日・昭和六三年四月二八日、出願公告日・平成元年一二月二五日、登録日・平成二年七月三〇日、指定商品・第二八類 酒類(薬用酒を除く)〕)、「BonMarche/ボンマルシェ」(乙一三の一・二〔出願日・平成三年三月二八日、出願公告日・平成四年一一月一三日、登録日・平成五年七月三〇日、指定商品・第二八類 酒類〕)、「VILLA MARCHE」(乙一四の一・二〔出願日・平成三年六月二八日、出願公告日・平成四年一一月二〇日、登録日・平成五年一〇月二九日、指定商品・第二八類 酒類(薬用酒を除く)〕)等の商標が設定登録されていることからも明らかである。

これに対し、被告商標は、「ダイエーのマルシェ」という称呼・観念を生じさせるものではないから、被告商標は本件商標〈2〉と類似しない。

(四) 同(四)の事実のうち、被告が、本件各商標権の指定商品である酒類について被告標章〈3〉〈4〉を使用していることは認めるが、その余は否認する。

(五) 同(五)の事実は否認する。

ただし、被告とその子会社を含む被告のグループ会社の平成五年一〇月一日から平成八年九月三〇日までの三年間の売上が合計金一二三億五四〇〇万円で、年間平均金四一億一八〇〇万円であったことは認める。

しかし、そのうち約五一パーセントは卸売と食料品売上が含まれているので、これを控除すると酒類の売上金額は約六〇億五三四六万円となり、その純利益は多く見積もっても年間で約三〇〇〇万円であり、三年間で約九〇〇〇万円となる。しかも、右売上には被告の子会社の分が含まれているので、これを控除すると、被告の純利益は、多く見積もっても年間約一四〇〇万円であり、右の三年間で約四二〇〇万円である。

3  同3について

(一) 同(一)の事実は否認する。

原告が、株式会社マルシェに業務委託してマルシェコーナーを設けたのは、原告の全ての店舗ではなく、しかも店舗内の一コーナーにおいて限られた消費者層を対象としているにすぎないから、それが一般的に広く認識されでいたとはいえず、原告の「装飾、服飾雑貨品等」の販売と被告の「酒類」の販売とが、一般需要者をして出所の誤認混同を生じるほど、原告表示が周知であったとは到底考えられない。

(二) 同(二)ないし(四)の事実は否認する。

三  抗弁

1  自己の名称の著名な略称の使用(商標法二六条一項一号)

被告の登記簿上の正式名称は「株式会社徳岡」であるが、営業上の通称は「SAKE市場MARCHE」またはその略称「MARCHE/マルシェ」である。

すなわち、被告は、通常「SAKE市場MARCHE」、「SAKE市場マルシェ」または極めて例外的に「MARCHE/マルシェ」単独の標章を使用しており、わずかに会社案内パンフレット等に登記簿上の正式名称が散見される程度であって、被告の店舗利用者の間では被告の正式社名を知らず、通称名の方を記憶している者が圧倒的に多い。

そして、被告は、現在店舗一四店を有し、主として関西地域を商圏とする中堅企業であり、昭和六三年に「SAKE市場MARCHE」、「SAKE市場マルシェ」心斎橋店を開店してマスコミの注目を浴びて以来約一〇年にわたり着実に成長を続けており、その過程において、その通称は少なくともこの業界において著名になったといってよい。

したがって、被告による被告標章の使用は、商標法二六条一項一号に規定される「自己の・・名称の・・著明な略称を普通に用いられる方法で表示する標章」に該当し、本件各商標権の効力は及ばない。

もつとも、同条項は「不正競争の目的」で使用したものについては適用がないが(同条二項)、被告は本件各商標権の存在を知らずに被告標章を使用し、原告から警告状を受け取るまで被告標章の使用に何ら法的問題があるとは考えていなかったし、原告が本件各商標を酒類について使用した事実は到底周知のものとはいえないのであるから、被告に不正競争の目的などあるはずがない。

2  先使用権(商標法三二条一項、不正競争防止法一一条一項三号)

(一) 被告の前身は、明治七年の創業以来、創業者の徳岡家の者が代々被告の肩書住所地において酒類の卸小売業を営んできた、由緒ある「酒屋」である。被告代表者は、昭和四六年一〇月一八日、右の家業を法人化して被告を設立し、さらに昭和六三年に至り、旧態依然たる酒屋のイメージを一新し、新しい業態を創造すべく、専門の業界コンサルタント等に広く提言を求め、「SAKE文化」の創造的再編を行う意図の下に、同年四月八日、「SAKE市場MARCHE」を店名とする新企画による酒類及び酒関連商材を総合的に取り扱う量販店を開店することとした。

この企画は、業界にいち早く注目され、同年三月四日の日本経済新聞紙上でも取り上げられ、また同月三〇日にはメーカーや有力卸、小売店等の関係者を招いて披露宴を催したほか、業界の専門記者との間で記者会見も行い、その様子も逐一業界紙へ大々的に掲載された。

そこで、被告標章は、昭和六三年三月四日以降、たちまちにして大阪ないし関西地区において、周知のものとなったのである。

(二) 一方、原告の本件商標権(2)は昭和五八年二月一九日に出願(平成二年八月三〇日設定登録)され、本件商標権(1)は昭和六三年六月一七日に出願(平成三年一月二五日設定登録)されたものであるが、原告の本件各商標権に基づく酒類商品(指定商品)の販売の事実を、被告は本件訴訟に至るまで覚知することができず、被告は原告が本件各商標権を有していることすら知ることができなかった。

(三) したがって、被告は、原告の本件各商標出願前から被告標章を使用し、原告の出願を知らず、何らの不正競争の目的なしに、現在までその使用を継続してきたのであり、しかも原告の本件各商標の登録出願の際には、被告標章は需要者の間に広く認識され、周知となっていたのであるから、被告は、被告標章の使用について先使用権を取得している。

(四) なお、原告の不正競争防止法に基づく請求についても、被告の標章の使用が先使用権に基づくものである以上、それは被告の権限に基づく自己の標章使用となるのであるから、被告に不正競業の意図はなく、被告は不正の目的でなく商品等表示を使用しているものであり、同法一一条三号、四号により、不正競争防止法上の差止請求、損害賠償の規定は適用されないから、原告の右請求には理由がない。

3  損害の不発生

原告が本件各商標を使用して酒類を販売したことはないか、仮にあったとしてもごくわずかであって(原告が販売していたのは「装飾・服飾雑貨品等」であって、しかも、その販売において原告の使用する本件各商標と同一の標章が、被告の販売する「酒類」との間で出所の混同が生じさせるほど周知であったとはいえない。)、原告の本件各商標には酒類販売につき顧客吸引力が認められず、その財産的価値は全くないか、仮にあったとしてもごくわずかなものであって、被告の被告標章の使用によって原告の販売する商品の売上について損害が生じたものとは認められないことはもちろん、原告には本件各商標権について得べかりし利益の損失による損害も生じていない。

原告が本件商標権(1)と同じ商標権を失効させたのは、これを使用してなかったことの証左である。

したがって、原告は、被告の被告標章使用によって何ら財産的損害を被っていない。

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1の事実は否認し、主張は争う。

2  抗弁2の事実は否認し、主張は争う。

被告の「SAKE市場MARCHE」あるいは「SAKE市場マルシェ」なる標章が周知標章となった事実はない。

原告は全国の直営店舗を中心に「マルシェコーナー」を設けて本件各商標を使用して盛大に営業展開し、本件各商標の周知性を確立してきた。

これに対し、被告はこのような事実を知りながら、あえて被告標章を使用して原告の業務に係る商品と混同を生ずるおそれのある営業(不正競争)を展開してきたのである。

3  抗弁3の事実は否認する。

原告は全国の直営店舗を中心に「マルシェコーナー」を設けて、装飾・服飾雑貨品等の販売営業を大規模に展開し、本件各商標や原告表示の周知性を確立させてきた。

理由

一  当事者について

請求原因1の事実は、当事者間に争いがない。

二  商標権に基づく請求について

1  (原告の本件各商標権について)

請求原因2(一)の事実は、当事者間に争いがない。

2  (訴えの追加的変更について)

(一)  原告は、商標権に関しては、本件商標権(1)のみを主張してこれに基づく差止請求及び損害賠償請求の訴えを提起しだが、平成九年四月一六日の本件第三回口頭弁論期日に、本件商標権(2)を主張してこれに基づく差止請求及び損害賠償請求を選択的に追加する訴えの変更を申立てた。これに対し、被告は、同年六月四日の本件第四回口頭弁論期日に、右原告の訴えの変更は請求の基礎の同一性を欠くものであるから許されない旨主張して異議を述べたことは、記録上明らかである。

(二)  ところで、本件商標権(2)の商標は本件商標(2)の構成から成るものであり、これを本件商標権(1)の商標である本件商標(1)と対比すると、本件商標(2)には、「MARCHE」の「M」の上部に円形の左下の一部が欠けた図形と欧文字の「Daiei」の表示(以下「ダイエーマーク」という。)があるが、そのほかは、本件商標(1)と全く同じ構成である。そして、本件商標(2)の文字部分は、そのダイエーマークより、位置と大きさにおいてはるかに目立つように表示されており、これに照らせば、本件商標(2)の要部は「MARCHE/マルシェ」の部分にあり、それは本件商標(1)と同じものである。

右の本件商標(1)と本件商標(2)の類似性及び原告の右各請求の内容に照らせば、右原告の各請求は、同一の生活関係ないし経済的利益についての紛争に関するものといえ、その請求の基礎は同一のものと認めることができる。

したがって、右被告の主張は採用できず、原告の右訴えの変更は適法なものと認められる。

3  (被告商標の使用)

(一)  被告が、被告標章〈3〉〈4〉を本件各商標権の指定商品である酒類について使用していることは当事者間に争いがなく、右事実並びに証拠(甲三の四・五、四ないし九、一三、一五ないし二〇、二六、三五の一・二、検甲一の三、二の一ないし三、三の三、四の二・三、五の一、六の二、七、九の二ないし四、一〇、一一の一・二、一二の三、一四の一・二、乙二〇、被告代表者)及び弁論の全趣旨によれば、被告が、その経営する酒類販売店舗の看板(店頭表示板)及び入口ガラス壁面等に被告標章〈1〉〈3〉〈4〉を、案内板に被告標章〈3〉をそれぞれ表示して使用し、また、被告が、自社の会社案内、その経営する酒類販売店舗の公告チラシ、定価札、領収書等に被告標章〈2〉を表示して使用していることが認められる。

(二)  しかし、右以外に被告が被告標章を使用していることを認めるに足りる証拠はない(証拠〔検甲九の二・三、被告代表者〕によれば、被告は、平成九年三月三一日当時、被告の宇治店の店舗外壁に被告標章〈1〉の標章を表示していたが、その後右標章の使用を止めていることが認められる。また、被告は、その経営する酒類販売店舗の看板(店頭表示)、日除けテント、外壁、広告燈、入口ガラス壁面、案内板等に、被告標章〈1〉と、被告標章〈3〉ないしこれと類似の「SAKE市場 マルシェ」あるいは「SAKE市場マルシェ」の標章とを、上下二段に近接表示(横書き)して使用していることが認められるが〔検甲一の二、四の一、五の二・三、八の一、九の一、一二の一・二、一三の一・二、一五、一六、一九の一、二〇の一、二一の一ないし四・八ないし一〇〕、右の表示は、二段の全体が複合一体の標章として表示されているものと認められるから、被告標章のどれにも当たらないというべきである。なお、原告は、本件訴訟において、各被告標章を組み合せる形の標章の使用の差止は請求していない。)。

(三)  右(一)認定の被告の被告標章の使用は、その使用態様に照らし、いずれも商品である酒類の販売に関し、その商品の出所を表示して、その品質を保証するなど、商品の標章の機能をもたせるためのものと認められる。

4  (本件各商標と被告商標との類否について)

(一)  (本件各商標)

(1) 本件商標(1)は、欧文字で「MARCHE」、片仮名文字で「マルシェ」と、上下二段に横書きされた、いずれも角ゴシック体の、ほぼ同じ大きさの文字からなるものであり、両者共通して「マルシェ」との称呼を生じるものである。

そして、marcheとはフランス語で「市場」を意味するところ、本件商標(1)の欧文字の「MARCHE」の末尾「E」にアクセント記号は付けられていないが、本件商標(1)も、その表音表示の「マルシェ」と合わせてフランス語で「市場」という観念を生じるものと認められるが、我が国の語学教育の現状を考慮すれば、右観念が我が国の大多数の取引者及び一般需要者間において明確に認識されているとまでは認め難いから、その観念において特徴的であるということはできない。

また、本件商標(1)の表示文字の字体ないしデザインに、格別特徴的なところはない。

したがって、本件登録商標(1)の最も特徴的なところは、欧文字及び片仮名文字部分の共通の称呼である「マルシェ」にあるといえる。

(2) 本件商標(2)は、ダイエーマークが付加されているほかは、本件商標(1)と同様の文字構成及びデザインのものであり、その文字部分はダイエーマークよりはるかに目立つ位置と大きさで表されていることは前述のとおりであり、本件商標(2)の最も特徴的なところも、欧文字及び片仮名文字部分の共通の称呼である「マルシェ」にあるものと認められる。

(二)  (被告商標)

(1) 被告標章〈1〉は、欧文字の「MARCHE」の文字を、その各文字の下端を連続的に、両端の「M」、「E」の文字の下端かち、中心の「R」、「C」の文字の部分の下端まで、盛り上がる形でアーチ型にデザインされたものでああるが、右のように文字を連続的にアーチ型にデザインして表示する方法自体は、格別特徴的なものとはいえない。

そこで、被告標章〈1〉の最も特徴的なところは、その称呼である「マルシェ」にあるというべきところ、それは本件商標(1)と同様であるから、被告商標〈1〉は本件商標(1)に類似する。

(2) 被告標章〈2〉は、片仮名文字の横書きで「マルシェ」と表されるものであるが、その外観(字体ないしデザイン)に格別特徴があるというものではなく、その最も特徴的なところも、その称呼である「マルシェ」にあるというべきであるから、本件商標(1)に類似する。

(3) 被告標章〈3〉は、欧文字で「SAKE」、これに続けて右「SAKE」よりやや小さい漢字で「市場」と表わされ、右「市場」の「場」の文字からわずかに隙間(空間)を設けて、「市場」よりはわずかに小さい片仮名文字で「マルシェ」と、連続して横書きで表されているものである。

右の漢字の「市場」の前に欧文字で「SAKE」と表示されているところは、やや特徴のある表示と見られなくもない。

しかしながら、「SAKE」と「市場」とが連続表記されているところから、右「SAKE」の部分は、取引者及び一般需要者には、被告の販売する商品である酒類を表すものと理解されるのが通常であると解され、それ以上に右の部分に特別の意味が見い出されるとは考え難い。また、「市場」の文字部分も、その外観上格別の特徴も認められず、一般に商品を取引する場所を意味する語として適宜使用されているものにすぎないものと解されるから、同様に格別特徴的であるということはできない。

そこで、取引者及び一般需要者からみれば、右「SAKE市場」の文字部分は、単に「酒」を専門的に販売している「市場(場所)」を表わしているにすぎないものと認識、理解されるにとどまるものであり、したがって、右の文字部分自体には自他商品識別機能はないものというべきであるから、被告標章〈3〉の最も特徴的なところは、「マルシェ」の片仮名文字部分の称呼にあるというべきである。

そうだとすれば、被告標章〈3〉も、本件商標(1)と類似する。

(4) 被告標章〈4〉は、欧文字で「MARCHE」と横書きで表わされるものであるが、それ以上に外観上の特徴はなく、結局、その最も特徴的なところは、その称呼である「マルシェ」にあるというべきであり、それは本件商標(1)と同様であるから、被告商標〈4〉は、本件商標(1)と類似する。

(三)  ところで、証拠(乙一一ないし一四の各一・二)によれば、本件各商標の登録に先行して、「MARCHE de Miyako」(出願日・昭和五三年九月八日、出願公告日・昭和五六年二月一七日、登録日・同年一二月二五日、指定商品・第二八類酒類)という商標が登録され、また、本件商標(2)よりも後願の、〈2〉 「マルシェグループ/MARCHEGROUP」(出願日・昭和六三年四月二八日、出願公告日・平成元年一二月二五日、登録日・平成二年七月三〇日、指定商品・第二八類 酒類〔薬用酒を除く。〕)、〈3〉 「BonMarche/ボンマルシェ」(出願日・平成三年三月二八日、出願公告日・平成四年一一月一三日、登録日・平成五年七月三〇日、指定商品・第二八類 酒類)、〈4〉 「VILA MARCHE」(出願日・平成三年六月二八日、出願公告日・平成四年一一月二〇日、登録日・平成五年一〇月二九日、指定商品・第二八類 酒類〔薬用酒を除く。〕等の商標が登録されていることが認められる。

右〈1〉ないし〈4〉の各登録商標は、その称呼が本件各商標の「MARCHE/マルシェ」とは異なり、かつ、「マルシェ」以外の部分にも、取引者及び一般需要者からみて、何らかの特別な意味があり、「MARCHE」又は「マルシェ」以外の部分とそれら以外の部分とを分離して認識、理解され難いものと認められる。

また、証拠(甲二の一・二、四四、乙一〇の一・二)によれば、被告は、昭和六三年三月四日、被告出願商標を、指定商品を第二八類酒類〔薬用酒を除く〕として特許庁に登録出願し、これにつき特許庁が本件商標(2)を引用して登録拒絶査定をし、これに対して、被告が、平成三年二月一八日、右査定に対する審判請求をし、その理由として、右引用例の本件商標(2)は、ダイエーマークが付されている点及び「SAKE市場MARCHE」」の全体が一体連合に認識されるべきものであって、「SAKE」「市場」及び「MARCHE」が分離した状態にはない点において、本件商標(2)とは非類似である旨主張したこと、その後の平成八年四月一日、右被告の出願に係る商標について出願公告の決定がなされ、その公告がなされた(なお、原告は、右出願公告に対し異議の申立てをし、被告出願商標は未だ設定登録されていない)ことが認められるが、右被告出願商標も、「SAKE市場」と「MARCHE」との間が切り離されておらず、その全体を一体連合のものとして認識され得る余地のものである点において、被告標章〈3〉とは異なるところがある。

したがって、右〈1〉ないし〈4〉の商標が設定登録され、被告出願商標につき出願公告がなされたことは、前記の本件商標(1)と被告標章との間の類似判断を左右するものではないというべきである。

5  自己の名称の著名な略称の使用(商標法二六条一項一号)の抗弁について被告標章は、いずれも、「自己の肖像又は自己の氏名若しくは雅号、芸名若しくは筆名若しくは略称」(商標法二六条一項一号)には当たらず、また、それが著名なものとなっていることを認めるに足りる証拠はないから、いずれにしても被告の右抗弁は理由がない。

6  先使用権(商標法三二条一項)の抗弁について

(一)  証拠(乙二ないし七、九、二三ないし四七、五〇、証人浅野京一、被告代表者)によれば、次の事実が認められる。

(1) 被告は、昭和六三年四月八日、「SAKE市場MARCHE」の標章を使用した被告の第一号店である「SAKE市場MARCHE」心斎橋店を開店した。右開店の前後に、いわゆる業界紙四紙が右開店に関する記事を掲載し、日本経済新聞が、「並行輸入で安く売る 円高ビジネス活発に」、「直販店を新設へ」等の見出しで、被告が直営小売店「マルシェ」を開店する旨の内容を含む記事を掲載した。また、同年七月二日付けの日経流通新聞には、「この店はやってます。」との見出しで、特徴のある数店舗を紹介する記事の中で、被告の「SAKE市場マルシェ」店の紹介記事(低価格で、多種類の酒類商品を揃えている等の内容のもの)が掲載された。

(2) 被告は、右「SAKE市場MARCHE」心斎橋店を開店した後、その年(昭和六三年)に、「SAKE市場MARCHE」の目黒店及び梅田店を開店し、その後その店舗数を増やして、現在では、大阪市内を中心にして、合計一四の「SAKE市場MARCHE」店舗を有している。

(3) この間、被告は、新聞広告やチラシの配付などによる宣伝に努め、平成元年にはワインブームに乗ってテレビでも報道されるなどした。

(二)  右認定事実によれば、被告は、「SAKE市場MARCHE」心斎橋店の開業以来、相当の宣伝活動をしてきたものと推認されるが、少なくとも右開店当初の昭和六三年当時は、それについて一部新聞紙上で取り上げられたにすぎないものであり、それ以外に、右開店から本件商標(1)の登録出願がなされた昭和六三年六月一七日までの約三か月間に、被告が、大阪市を中心にした関西地区において、取引者及び一般需用者間に「SAKE市場MARCHE」が被告の営業として周知されるに至るほどの大々的な宣伝広告活動を繰り広げたというような事情は窺われない。

そうだとすると、本件商標(1)が登録出願された昭和六三年六月一七日当時においては、被告の酒類販売店「SAKE市場MARCHE」の標章が、大阪市及びその周辺の関西地区においてさえ、取引者及び一般需要者の間に広く認識されるに至っていたとは到底認め難い。

したがって、被告主張の先使用の抗弁は採用できない。

7  以上によれば、前記(3(一))の被告による被告標章の使用は、いずれも原告の有する本件商標権(1)を侵害するものであり、また、被告には、その経営する酒類販売店舗の看板(店頭表示板)、広告燈、日除けテント、案内板、外壁及び入口ガラス壁面に被告標章〈1〉及び〈3〉を、領収書に被告標章〈1〉ないし〈4〉を、チラシに被告標章〈1〉ないし〈3〉を、会社案内及び定価札に被告標章〈2〉をそれぞれ使用して、本件商標権(1)を侵害するおそれがあるものと認められる。

8  原告の損害について

(一)  証拠(甲三〇ないし三二、三三の一ないし三、検甲一七の一・二、検甲一八の一ないし四、二二の一・二、証人増田喜信)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

(1) 原告は、昭和五〇年ころから、自己の店舗内において「マルシェコーナー」なる売場を設置し始め、また、原告の一〇〇パーセント出資による子会社である株式会社マルシェを設立し、同社との間で本件各商標権の使用許諾契約を締結してこれを同社に使用させ、現在では株式会社マルシェが、原告が経営する中心店舗であるダイエーの店舗内を中心にした約一七〇か所で、原告表示を使用して営業している。

(2) しかし、原告及び株式会社マルシェが原告表示を使用して販売してきた商品は雑貨、小物類であり、しかも、その販売場所は、大半が原告のダイエー店舗内のさほど大きくない一区画であった。

(3) 原告は、最近に至って、ラベルに「MARCHE」の標章を使用したワイン(以下「原告ワイン」という。)を自己の店舗内で販売しているが、それはあくまで試験販売である上、その販売店舗も東京都内及び関西圏内の数店舗にすぎない(その販売量や販売高は明らかでない。)。

(二)  ところで、商標法三八条一項及び二項は、商標権者等が被った営業上の損害の額についてその主張立証が困難であることにかんがみ、これを軽減することを目的として、権利者が被った損害の額を推定するにとどまるものであり、侵害者は権利者の損害の発生があり得ないことを抗弁として主張立証して、損害賠償の責めを免れることはできるものと解される(最高裁判所平成九年三月一一日判決・民集五一巻三号一〇五五頁参照)。

そして、右(一)の認定事実によれば、原告ワインはあくまで試験販売されているものにすぎないことから(その販売量、販売高は不明である。)、酒類販売について、本件商標(1)自体に顧客吸引力があるとは考え難い(本件商標(2)についても同様である。)。

また、原告及び株式会社マルシェによる原告表示を使用しての雑貨、小物類等の販売の態様は前記認定のようなものであり、これから、右雑貨、小物販売について原告表示ないし本件各商標が一般需用者の間に周知のものとなったと認めることはできず、他に右周知性の存在を認めるに足りる証拠はないし、酒類と雑貨、小物類とは商品の酒類が全く異なり、しかも両者には何らの関連性もないことからすれば、原告及び株式会社マルシェの雑貨、小物類の販売についての原告表示ないし本件各商標の使用が、原告ワインの顧客吸引力に影響を及ぼすとは考え難い。

右の諸点を考慮すれば、酒類販売について本件商標(1)に顧客吸引力はなく、被告が被告商標を使用したことによって原告に営業上の損害は生じていないものいうべきであるから、原告の商標権侵害に基づく損害賠償請求は理由がない(原告の本件商標(2)についても同様である。)。

三  不整競争防止法に基づく請求について

原告表示ないし本件各商標が一般需要者の間に周知なものとなっていると認められないこと及び被告の被告標章の使用によって原告に損害が生じていないことは前述のとおりであるから、いずれにしても、原告の不正競争防止法に基づく請求は理由がない。

四  以上の次第で、原告の請求は、主文第一、二項掲記の限度で理由があるからこれを認容し、その余は失当であるからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法六一条、六四条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(別紙) 原告商標目録

〈省略〉

(別紙) 被告商標目録

〈省略〉

(別紙) 被告出願商標目録

〈省略〉

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